スポーツ整形

はじめに

競技スポーツ、学校スポーツ、健康スポーツなどいろいろなレベルでのスポーツ活動がありますが、ケガや障害を起こしてはせっかくのスポーツを楽しむことができません。当院ではスポーツ障害の予防、ケガの早期治療、スポーツへの早期復帰を目指して、教育、リハビリテーション、必要ならば手術的治療も積極的に行っています。

院長は中学・高校・大学とサッカー部に所属し、現在も香川県のシニアリーグでサッカーを楽しんでいるほか、カマタマーレ讃岐や地域のジュニアユースチームのチームドクターを務めています。副院長はテニス・野球、伊坂医師はバスケットボールとかかわりが深く、それぞれスポーツ特性に応じた対応を心掛けています。

自己診断や代替療法に頼りがちなスポーツ障害ですが、大事なのは正確な診断と早期の適切な治療です。ケガをした部位の腫れがひどかったり、翌日痛みが強くなって まともに歩けない状態であれば、すぐに整形外科を受診することをお勧めします。早期にきちんとした治療が行われていれば、スポーツにも早く復帰できるのが道理です。ケガによっては、手術的に治療しないと機能障害を残してしまうケースもあります。ただの突き指、ただの捻挫だと思わないで、まず整形外科を受診して下さい。

スポーツ外来

当院は従来から、アスリートやスポーツ選手の外傷・障害に積極的に関わってきましたが、診察のため特に中高生に午前中に受診してもらう事を心苦しく感じていました。そこで平成21年より月・火・金曜の夕方にスポーツ外来を行っています。

専門外来として完全予約制ですが、地域の先生方からご紹介いただく場合には初診でもこの時間帯に受け付けます。外傷・障害の治療のためには正確な診断が求められるだけでなく、スポーツの種目特性や選手のメンタル面にも配慮しなくてはいけません。

復帰のためのプログラムを立てるためにはスポーツドクターとして豊富な経験が求められます。場合によっては手術が必要なケースもあり、鏡視下手術を初めとする色々な手術に対して確かな技術と経験を要します。スポーツ外来の予約については、外来スタッフにお問い合わせ下さい。

手術とリハビリテーション

最近では、スポーツ選手やアスリートが手術を受けることも珍しくなくなりました。手術は恐いという不安・心配は当然ですが、場合によっては手術が必要なことがあります。

手術をしなければ治らないケガもあれば、外傷・障害の状態によっては、手術をした方が早いという場合もあります。

しかし手術さえすれば「治る」わけではありません。術後のケアやリハビリテーション、特に現場でのアスレチックリハビリテーションが非常に重要です。自分の身体と向き合って、段階的にスポーツ復帰を目指すことが大切です。

スポーツのメディカルサポート

当院では、院長がカマタマーレ讃岐のチームドクター、伊坂医師がファイブアローズのチームドクターを務めているほか、理学療法士(PT)がトレーナーとして中高生のスポーツチームのお世話をさせて頂いています。

忙しくてなかなか充分な力になれていない面もありますが、栄養面も含めて一般的な健康管理、ケガや障害の予防教育、メディカルチェック、復帰のためのアドバイスなど地域スポーツに貢献したいと考えています。

関節鏡手術

関節鏡は、関節の中を観察するための内視鏡です。数ミリの小切開を2~3ヶ所に加えて関節鏡で内部を確認しながら、必用な手術的操作を加えることができます。

器具やテクニックの進歩により、最近ではかなり複雑な操作も可能になっています。代表的なものとして、鏡視下前十字靭帯(ACL)再建術、鏡視下半月板縫合術、鏡視下ドリリング、鏡視下前距腓靭帯(ATFL)修復術などがあります。

当院では膝・足関節を中心に多くの関節鏡手術を行っています。

アスレチックリハビリテーション

外傷や術後の急性期は病院内でのリハビリが主体となりますが、日常生活に不自由がなくなっただけではスポーツに復帰することはできません。筋力の強化やスタミナの回復、競技特有の身体運動を取り戻すために、よりスポーツ現場に近い形でアスレチックリハビリテーションを行う必要があります。(われわれは これを別メニューと呼んでいます。)プロスポーツの場合はチームにトレーナーがいて選手の復帰プログラムを組んでもらえますが、中高生の場合やアマチュアの場合はほとんど不可能です。そこでリハビリのときに自分で行える別メニューをよく教えてもらって、毎日繰り返しトレーニングすることが重要です。

当院では、付属の健康増進施設である「アズーリ」で別メニューを行うことも可能です。この場合は医療費とは別に特別会員としての費用がかかりますが、健康運動指導士が個別に復帰プログラムを立てて指導してくれます。

スポーツ整形のよくある疾患

膝の前十字靭帯(ACL)損傷(断裂)

前十字靭帯 (ACL) は意外と簡単に切れてしまいます。他人とぶつからなくても、急にストップや方向転換をしたときに膝を内側に捻って踏ん張ると、ブチッと音がして損傷してしまいます。またジャンプして片脚で着地したときにも切れることがあります。

靭帯が切れると当然痛みや腫れを生じるため歩行が困難で、膝が伸びきらないまたは曲がらないという可動域制限がみられます。また医療機関を受診すると、関節内に出血していると指摘されることが多いと思われます。

その後1-2週間もするとかなり痛みは和らいで、ほとんど普通に歩けるようになります。しかし治ったわけではありません。

なぜ手術が必要なのか

前十字靭帯(ACL)が損傷すると、ジャンプして着地するときや急にストップ又はターンするときなど、膝の踏ん張りがきかずにガクッと膝がズレてしまいます。そのため思いきりスポーツをすることができず、また無理に行おうとすると軟骨や半月板の損傷を繰り返して膝が傷んでしまいます。スポーツ活動を続けるには前十字靭帯(ACL)の再建術が必要です。

ACL 再建術

自分の膝の屈筋腱(ハムストリング腱)を採取して、人工靭帯と一緒に再建靭帯を形成し、大腿骨及び脛骨に開けたトンネルの中を通して、骨にしっかりと固定します。また膝蓋腱の真ん中 1/3 を採取して用いる方法もあります。

ハムストリング腱を用いるか、膝蓋腱を用いるか、それぞれメリット・デメリットがあるので患者さんによって使い分けます。本来の ACL に可能な限り似せて再建するために色々な工夫やテクニックがあります。自分の組織といっても他の場所から移植するわけですから、生着し成熟するには長期間を要します。

リハビリの重要性

スポーツに復帰するためには、退院後も根気良いリハビリテーションが必要です。ただ単に時間が経っても筋力や膝の可動域は回復しません。段階的なアスレチックリハビリテーションを行い、充分に膝が回復してからでなければ通常の練習や試合には復帰できません。一般に数ヶ月~半年が必要です。スポーツ復帰が早すぎた場合、靭帯の再断裂を起こしたり完全に弛んでしまったりします。良好な成績を得るにはリハビリが非常に重要です。

広瀬病院では

原則としてハムストリング腱を用いますが、症例によって膝蓋腱を用いて鏡視下再建術を行っています。断裂した ACL は数カ月すると短縮し吸収されてきますが、もともとの組織が残存している限りは、可能な限りそれを温存しながら再建します(レムナント温存ACL再建術)。アスレチックリハビリテーションのために、併設しているフィットネスクラブ ”アズーリ” を利用することも可能です。

離断性骨軟骨炎

関節軟骨下の骨組織が何らかの原因で母床から剥がれた状態です。病巣が母床からまだ剥がれていない時期、少し剥がれかけて不安定な時期、完全に剥がれて脱落した時期、脱落してから長期間が経過した場合など、その進行度によって症状と治療法が異なります。代表的な部位は膝と肘、足関節であり、肘の障害は「野球肘」と呼ばれ、足関節の場合は繰り返す捻挫と不安定性が原因のこともあります。

以下、膝の場合を中心に述べます。まだ小学生で 病巣がまだ安定して軟骨の連続性も保たれている場合には、運動の制限(スポーツ禁止)と経過観察を行います。半年~1年以上かかりますが、通常 徐々にレントゲン像が改善してきます。この時期には病像を悪化させないことが重要で、スポーツは残念ながらお休みとなります。
中高生で症状が明らかだが病巣が安定している場合には、鏡視下ドリリングを行います。剥がれかかって不安定な時期であれば、吸収ピンや骨釘を用いて固定します。病巣が脱落してしまった場合には、母床を掻爬・新鮮化して骨軟骨片を整復し固定する必要があります。

また脱落してから すでに長期間が経過した場合には、モザイクプラスティ (mosaicplasty)と呼ばれる自己骨軟骨移植が有効です。

足関節靱帯損傷(足首の捻挫)

スポーツに関わるケガの中で最も多いものの一つです。足首を内側に捻って、外側の痛みと腫れを生じる内返し捻挫(外側靱帯損傷)が大部分ですが、なかには外返し捻挫(内側靱帯損傷)もみられます。また患者さんが「捻挫」と思って受診しても、実は足関節の骨折であったり、第5中足骨疲労骨折、腓骨筋腱脱臼であったというケースも稀ではなく、やはり早めに整形外科を受診することが重要です。また捻挫を放置したり不適切に治療した場合に、不安定性が残存したり 後に離断性骨軟骨炎や変形性関節症を生じたりすることもあり、注意が必要です。


  • 患側

  • 健側

特に中高生で初回の捻挫の場合、不安定性を残さずにきちんと治すことが重要です。ストレス撮影や超音波検査、場合によっては MRI 検査を行って不安定性(重症度)や合併損傷の有無を評価し、不安定性がみられる場合には何らかの固定を行います。一般にテーピング・装具が用いられることが多いですが、急性期に日常生活を含めてきちんと固定を続けることは意外と困難です。

そこで当院では、ソフトキャストによるギプス固定を行っています。通常のギプス治療では、歩行が困難で松葉杖を用いることが多く、そのために筋力が衰えたり足首が硬くなったりしてスポーツ復帰に時間がかかってしまいます。しかしソフトキャストであれば、ギプスを巻いて2-3日以内に通常の歩行が可能となります。この状態で2-3週間固定し、その後テーピングや装具固定を用いながらスポーツ復帰を図ります。

スポーツ復帰のためにはまず真っすぐ走れること、そして片脚でバランスを保てることが最低限必要です。固定が外れてからすぐスポーツに復帰しようとすると、筋力不足やバランス不良のために捻挫を繰り返し不安定性を生じてしまいます。このため初回の靱帯損傷を適切に治療するには、最低約6週間が必要です。殆どの場合、適切に治療すれば痛みや不安定性を残すことなくスポーツ復帰が可能ですが、何らかの理由でキチンと治らなかった場合は足首の痛みや違和感・不安定感のためにスポーツのパフォーマンスが落ちることがあります。テーピングや徹底したリハビリテーションでも上手くいかない場合は、手術を行うことがあります。

靭帯再建術も一つの選択肢ですが、侵襲が大きく足首が硬くなることも多いため、当院では鏡視下靭帯(ATFL)修復術を行っています。関節鏡手術のため侵襲が少なく、約2カ月~3ヵ月でスポーツ復帰が可能です。

腰椎疲労骨折

一般の整形外科診療で、腰痛は最も頻度の多い訴え(症状)と言えます。人間は2本足で歩いているわけですから常に腰には負担をかけているわけで、一生のうちに一度も腰痛を経験しない人はむしろ稀かもしれません。しかし小学生が「腰が痛い」を言うのは何かおかしいと考えるべきです。それほどひどい痛みでなくても念のために整形外科を受診することをお勧めします。成長期のスポーツ選手では、腰痛の原因のうち「腰椎疲労骨折」が大きな割合を占めています。

通常のレントゲンでは所見がないのが普通ですが、MRI や CT 検査を行うと腰椎の後方部分にヒビ(亀裂)を生じているのが分かります。そのまま放置すると、腰痛はいったん軽快しても再び痛みに悩まされることがほとんどです。ヒビ(亀裂)であったものが次第に拡大して骨癒合を得ることができなくなり、腰椎分離症という状態に進行するからです。

ヒビのうちに見つかれば、骨癒合を得ることも可能です。そのためにはコルセットを装着して、しばらくスポーツを休まなくてはなりませんが、将来のことを思えば「今できることをやる」べきだと考えています。

オスグッド病(オスグッド・シュラッター氏病)

成長期の膝の痛みの原因として、代表的な疾患です。成長期には骨の長さが急速に伸びるために、筋肉の伸びが追いつかず、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が突っ張ってしまうことがあります。その時期にスポーツ等で大腿四頭筋の過度の収縮を繰り返すと、膝蓋腱に脛骨粗面部の成長軟骨(骨端線)が引っ張られて、この部分が膨隆し痛みを生じてきます。

安静時痛はありませんが、運動をすると痛い・運動後に痛いなどの症状がみられます。通常はストレッチをしっかりと行い、症状に応じて運動を制限することでスポーツ継続が可能です。場合によっては膝蓋腱を押さえる装具が有効です。成長軟骨が閉じて成長期が終了する頃には症状もおさまることが多いのですが、稀に軟骨の一部が骨片となって残存し、大人になっても痛みが続く場合には手術を行う例もあります。

野球肘

野球に限らずテニスのスマッシュやバレーボールのアタックでもそうですが、投球動作の繰り返しは肘に大きな負荷を与えます。投球動作の際、肘の外側には上腕骨と橈骨頭の間に圧迫力が加わり、内側には牽引力が働きます。少年(成長期)の場合は、外側の圧迫力のために上腕骨小頭に離断性骨軟骨炎を生じることが多く、成人の場合は内側側副靱帯が繰り返し伸張されて 靭帯に小断裂を生じて緩んできます。予防として投球回数の制限が重要で、小学生の場合には週に200球までと言われています。

症状は投球時あるいは投球後の肘の痛みであり、病期の進行にしたがってレントゲン上 透瞭期・分離期・遊離期に分類されます。遊離期になると、母床から剥がれた骨軟骨片が関節内に引っかかって激痛とともに肘が動かせなくなることもあります。早期(透瞭期)に発見された場合には、数ヶ月間の投球禁止で徐々に修復されてきますが、分離期以降では手術を必要とする場合も少なくありません。最近では超音波(エコー)検査によって早期診断が可能になってきました。早く分かれば、ひどくならないうちに治療を開始して早期にスポーツ復帰が可能です。

身体が硬くて、しなやかに身体全体を使ったフォームで投げていない場合は、肩や肘にストレスが集中して障害を起こしやすいので注意が必要です。普段から、ストレッチと体幹の強化を行い、正しいフォームで投げることが予防に重要です。

投球肩障害

肩関節は前後左右に大きく動かすことのできる関節ですが、その反面 肩甲骨の浅い受け皿に丸い上腕骨頭が乗っかっており、丁度けん玉のように不安定です。受け皿の縁取りをするように関節唇があり、そのトップの位置から上腕二頭筋腱が伸びています。また上腕骨頭を肩甲骨の受け皿にグッと引き寄せるのが腱板です。投球動作は骨も含めて前述の色々な組織に負担をかけますので、損傷部位も様々で、一口に「投球肩障害」と言ってもその病態は様々です。注意深い診察を行い、体幹や骨盤など身体全体のバランスや柔軟性のチェックも行います。下半身をうまく使えないでいわゆる「手投げ」になっている場合は肩に強い負荷がかかってしまうからです。

検査としてはレントゲンの他、超音波(エコー)検査。場合によってはMRI, CT 検査が必要なこともあります。

ほとんどの場合は、投球を控えることと、体幹や骨盤を含めたストレッチや内在筋のトレーニング、投球フォームのチェック等によって改善してきます。しかし場合によっては手術(関節鏡視下手術)が必要なこともあります。

半月板損傷

半月板は、大腿骨側の軟骨と脛骨側の軟骨の間に位置する「スペーサー」で、内側と外側に1対みられます。上から見ると三日月形をしており、ちょうど「パッキン」のような役割を果たしています。すなわち丸い大腿骨面と平らな脛骨面の間にあって、その隙間を埋めるような構造となっています。膝をねじる様な捻挫の際に半月板を傷めることがありますが、半月板だけが断裂することは意外と少なく、むしろ若い人では前十字靭帯(ACL)などの靱帯損傷に伴って傷めることが多いと言えます。中高年の場合は、軟骨と半月板の両方が年を重ねるごとに徐々に傷んでくるということが大部分です。また、外側の半月板が通常より大きくて分厚いために(円板状半月板)、ねじれやすくて損傷するというケースもあります。

損傷(断裂)の部位や形態・程度、患者さんの年齢・ニーズ、合併損傷の有無によって治療方法は異なります。保存療法としては、リハビリやヒアルロン酸の関節内注射を行います。断裂部が引っかかる場合には、その部分だけを切除する鏡視下半月板切除術を行うこともありますが、可能な限り縫合術を行って半月板の温存を目指します。

アキレス腱断裂

「何か当たったような衝撃を感じた」・・ 

アキレス腱断裂の患者さんがよく口にする受傷時の感覚です。意外と痛みは少なく何とか歩ける場合もあって、患者さんの中には「まさか切れているとは思わなかった」と仰る方もいます。しかし歩けるとはいってもまともに歩けるわけではなく、つま先立ちができません。アキレス腱はふくらはぎの筋肉につながっていて、これに引っ張られて断裂部にはギャップを生じてしまいます。

治療法としては、ギプスと装具で治療する保存療法と 手術療法の2つがあります。保存療法の最大の利点はキズを作らない・手術にまつわる合併症の危険がないという点です。しかしギプス固定期間が長く(約4週間)その後の装具装着期間も含めると約2ヶ月間は不自由な生活となるうえ、再断裂のリスクが手術より高いというのが欠点です。それに対して手術療法は、断裂部を確実に縫合できるため早期の運動療法が可能で、ギプス固定期間は1週間未満です。このため筋力の回復が早く、スポーツ選手には原則として手術を勧めています。

当院では、入院し伝達麻酔または腰椎麻酔で手術を行っています。Krackow 法という特殊な方法を用いて確実に縫合し、術後はギプス固定を行います。1週間以内にブーツ型の装具に変更して、全体重をかけて歩行が可能になったら退院です。多くの場合、入院期間は1-2週間となります。