「手の外科」とは肘、手首、手などの上肢全体を専門とする分野です。人間の高度文明社会は細かな動作を行える手や指があったからこそ、発展したと言われています。つまり、「手」は「一番人間らしい箇所」といっても過言ではありません。手指の痛みやしびれ、変形などの障害は日常生活において大きなハンディキャップとなります。また、放置することによって、多くはさらに重篤な状態となり、治療はさらに困難で長期間に及ぶものとなります。
「指が動かしにくい」「手の痛みが取れない」「手がこわばる」などの症状で困っておられる方、あるいは「近くのお医者さんに行ったがよくならない」「薬を飲んでもしびれが取れない」「手のリハビリが受けられない」など、今、受けている治療に不安を持っておられる方は手の外科にご相談ください。
母指・示指・中指・環指の母指側半分から手掌にかけてしびれがあります。症状が進むと、母指の付け根の筋肉(母指球筋)がやせてくるため、母指と他の指を使った細かい作業ができにくくなります。(猿手)
男性よりも女性に多く、妊娠や更年期の女性に多く見られます。男性にもみられ、手を使う重労働者や骨折によっても発症します。糖尿病・透析患者にも多くみられます。
正中神経が手首にある手根管というトンネルで圧迫されることにより、神経症状が出現している状態です。
初期では安静やビタミン剤の内服、ステロイド剤の手根管内への局所注射が行われます(保存療法)。これらの方法でも改善が乏しい場合は手術の適応となります。
手術は比較的短時間で、日帰りもしくは短期間の入院で行えます。手関節部分に数センチの小さな切開から圧迫されている正中神経を解放します。かなり麻痺が進行した手根管症候群では腱移行などの手術を必要とする場合もあります。
小指と環指の外側にしびれがあります。麻痺が進行すると指間部の筋肉がやせて、小指と環指がのばせなくなります(かぎ爪変形)。
肘の内側で尺骨神経が圧迫されたり伸展されたりすることにより発症します。ガングリオンや加齢によってもおきますが、小児期の骨折が原因となる場合もあります。
薬物投与による保存療法が成功しない場合は手術治療の適応となります。尺骨神経を圧迫している骨を削ったり、筋膜を切開したりします。神経全体を前方に移動させる方法もひろく行われています。
指の付け根に腫れと痛みを生じます。それを腱鞘炎といいます。それが進行すると指が動かしにくい、動かそうとするとひっかかるようなバネ現象が見られます。それをバネ指といいます。
母指・中指・環指に多くおきますが、どの指にも起こりえます。更年期・妊娠時・産後の女性に多いですが、男性にも起こります。糖尿病・透析患者にも多くみられます。
指を曲げる屈筋腱は腱鞘というトンネルのような筒の中を滑走しています。何らかの原因(多くは使い過ぎ)で腱や腱鞘が腫れ、より悪循環になり腱の通過障害を生じ、指を動かしにくくなります。
局所の安静が必要ですが、麻酔薬と混ぜたステロイド剤の腱鞘内への局所注射も効果があります。それでも症状改善されない場合は、手術療法の適応です。(手術は日帰り手術)。長く放置されたばね指は関節の曲げ伸ばしが悪く、長期のリハビリが必要となることがあります。
手首の母指側に腫れと痛みが生じます。母指を伸ばしたり、曲げたりすると痛みは増強します
この部分には第一コンパートメントという腱鞘があり、その中を短母指伸筋腱と長母指外転筋腱という2本の腱が滑走しています。腱鞘が肥厚すると腱の滑走が障害され炎症(腱鞘炎)がおきます。基本的には母指の使いすぎが原因です。
パソコン作業を多く行う人やスポーツマンに多くみられますが、妊娠時・産後・更年期の女性にも多くみられます。
まずは安静にします。または、麻酔薬と混ぜたステロイド剤の腱鞘内への局所注射も効果がある場合があります。それでも症状改善がなければ、手術療法の適応です。手術方法としては小皮切で腱鞘を切開します。(日帰り手術)
手首の関節部の痛み、腫れ、関節可動域の制限が起こります。そして手関節から手にかけての変形が見られます。時に橈骨の手のひら側を走っている正中神経が、骨折した骨や腫れで圧迫されると、母指から環指の感覚が障害されます。
前腕の2本の骨のうちの橈骨が手首のところ(遠位端)で折れる骨折です。転倒して手をついた時に生じます。骨折の中でも頻度が高く、特に閉経後の中年以降の女性や高齢者では骨粗鬆症で骨が脆くなっているため骨折しやすいと言えます。しかし若い人でも高所から転落した場合や、交通事故などで強い外力が加わると起こります。前腕のもう一本の骨である尺骨の先端やその手前の部分が同時に折れる場合もあります。子供では橈骨遠位の骨端線と呼ばれる成長軟骨板の骨折が多く見られます。
X線(レントゲン)検査で確認します。骨折型で治療法が異なるのでレントゲン像で不安定なタイプや関節面に骨折が及ぶような場合はCT検査を追加してさらに詳細に検討します。治療は先ず、手を引っ張ったりして元の形近くに戻します(徒手整復)。整復後安定している場合は、そのままギプスやギプスシーネで固定します。固定期間は通常5間程度で、その後リハビリテーションが必要となります。整復しても骨折部が不安定な場合、手首の関節に面する骨片の一部がずれたままで整復出来ないものなどは手術が必要になります。
現在は、多種のプレートが開発されており、プレートでの固定が主流となっています。術後早期からのリハビリができることが最大の利点です。
突き指によって生じる事が多く、第一関節が曲がったままで、自分で伸ばそうとしても伸びません(自動伸展不能)。しかし、手伝ってやると伸びます(他動伸展可能)。
主に2つの病態があります。一つは腱断裂によるもので、指をのばす腱が第一関節部(DIP関節)で断裂しておこるものです。もう一つは、腱の付着している部の骨折によっておこるものです。
腱断裂によるものは保存的治療(外固定)が一般的です。まれですが手術を行う場合もあります。骨折によるものは手術による骨折の整復が必要です。多くはX線透視下で鋼線により固定します。(日帰り手術)
怪我の直後は痛みと腫れがありますが、時間とともに痛みは軽くなります。(単なる捻挫と間違えて、放置されることもあります)しかし、次第に手首の痛みが生じ、力が入らなくなり、また動きにくくなってきます。
スポーツや事故で手首を背屈して手を付いたときに生じることが多い。この骨折の特徴としては、骨折とは思わず、単なる捻挫と思ったまま放置され、骨がつかず(遷延治癒)、偽関節になることが多いという事です。舟状骨骨折は初期には普通のX線検査では発見されにくいことが多く、たとえ鈍痛でも、手首に痛みが残っている場合は舟状骨骨折を疑って多くの方向からX線検査を追加するか、CT・MRI撮影をする必要があります。
舟状骨骨折治療の問題点は、舟状骨は血行がわるく非常に治りにくい骨であるということです。したがって、ギプス固定は通常の骨折より長くなります。しかし、最近は早期から特殊なネジなどを使って積極的に手術するようになりました。また、すでに偽関節となっている場合は骨移植などの手術が必要です。
動かすと肘の外側が痛く、腕を捻ったり伸ばしたりすると痛みは増強します。タオルを絞ったりすることがつらくなります。
手首や指を伸ばす伸筋群が上腕骨に付着している部分が炎症をおこしているものとおもわれます。中年以降のテニス愛好家に生じやすいのでテニス肘と呼ばれていますが、一般的には年齢とともに腱が痛んで発症します。中指を伸ばした状態で他動的に屈曲させたり、伸展させた手首を他動的に屈曲させて痛みが誘発されればテニス肘と診断できます。
手首や指のストレッチをこまめに行い、手を使う作業を控えることで、多くの場合は数か月以内に痛みが軽くなります。その他には、麻酔薬入りステロイド剤の局所注射や、テニス肘用バンドの装着も効果があります。このような治療でも改善が認められない場合は、腱膜切開術、切除術、前進術などがあります。
手首の甲、手首の内側、手掌にグリグリとした膨らみができたりします。多くの場合が痛みはありませんが、手首の甲にできると神経を圧迫するため手をついて立ち上がるような時に痛みがあります。
関節包や腱鞘から発生すると考えられています。必ずしも手をよく使う人に出るとは限りません。
痛みを伴わない場合は放置しておいてもかまいません。神経の圧迫症状が出る場合は、ゼリー状内容物を抜き取ったり、手術により摘出したりします。どちらの治療方法でも再発する可能性はあります。
手掌から指にかけてこぶのような硬結ができ、次第に指が伸ばしにくくなります。環指・小指に多く出ますが、母指以外の他の指にも発症します。
手掌の皮膚の下にある腱膜の肥厚や拘縮(ひきつれ)によっておきます。原因は不明です。指を曲げる腱は正常で、皮膚や周囲の組織(腱膜)の異常です。男性に多く発症します。また、糖尿病を合併している場合が多くあります。多年にわたる飲酒歴がある方たちが多いといわれています。皮膚疾患や腫瘍と誤診される場合があります。
指の変形や痛みで日常に支障を来すようになると治療が必要になります。
一般的には手術による異常腱膜の切除が必要となります。
最近は、注射による酵素注入療法(ザイヤフレックス®)も開発され、侵襲の少ない治療方法もあります。
(酵素注入療法は特別な講習を受けた手の外科専門医のみが可能な療法です。ご希望の方は外来でご相談ください。)